会社の業務を進めているのに、事業が成長していないと感じることがあります。次の成長事業が議論され、来期の計画も作ります。開発部門は商品の改良に取り組み、営業部門は顧客を訪ねて新しい案件を追っています。管理部門は業務を効率化し、人材採用を強化して組織を組み替え、新しいシステムも導入している。経営者は、次から次に現れる問題に判断を下し続けている。それなのに、事業が成長していないと感じる。そういうことがあります。事業が成長しない原因や施策を考える前に、自社の事業が3つの状態「事業が成立しない」「成立しているが拡大しない」「次の事業へ派生・展開しない」を見分ける方法を解説します。
「売上が伸びない」の前に、何が止まっているかを見分ける
事業が成長しないとき、企業の経営者はマーケティング、営業、人材採用、組織改革、新規事業、コスト削減など、さまざまな対策を行います。
しかし、対策を重ねても状況が大きく変わらないことがあります。マーケティング・営業活動を強化しても、新商品を投入しても、人を増やしても、組織を変更しても、売上が伸びない。会社が成長している実感を持てない。
打ち手が不足している、とは限りません。そもそも、自社の事業に起きている停滞を正しく見分けられていない可能性があります。
事業の成長停滞は、大きく三つの状態に分けて考えることができます。
第一は、事業が成立していない状態です。困っている人がいる。まだ十分に満たされていない人がいる。あるいは、本人もまだ言葉にできていない願いや可能性がある。そこへ企業が何かを差し出す、商品や技術やサービスなどです。差し出したものが相手にとって価値となり、価値に対して対価が戻ってくる。その関係が一度きりの偶然ではなく、繰り返し成り立つ。そこに、初めて事業が成立します。そこまで到達していない状態が第一です。
第二は、事業は成立しているが、拡大しない状態です。ひとりの顧客が感じられた価値を、別の顧客にも届けられるようにする。同じ品質のまま、より多くの相手へ届ける。経営者や特定の担当者の力に依存せず、組織として他の顧客に対して繰り返せるようにする。そうして、成立した価値が広がっていきます。そこまで到達していない状態が第二です。
第三は、一つの事業は成立し拡大しているが、次の事業へ派生・展開しない状態です。事業を続けていると、企業は顧客から多くのことを学びます。最初に見ていた問題の奥に、別の問題があると知ります。商品を使う人の暮らしに、これまで見えていなかった変化を見つけることもあります。技術、顧客との関係、社員の能力、取引先との協力、社会から得た信頼が積み重なり、自社が今まで作れなかった価値を作れるようになることもあります。その経験から、次の価値が生まれます。そこまで到達していない状態が第三になります。
三つは、いずれも「成長しない」という同じ言葉で言い表せても、企業の内部で起きることや、経営者が答えるべき問いは異なります。三つを区別しないで対策を始めると、目の前の壁を乗り越えるのに必要ではないことに労力をかけてしまうことになります。事業が成立していないのに営業量を増やしたり、一つの事業を拡大できないのに新規事業を仕掛けたり、事業を派生させるべき段階で既存事業の改善だけを続けたりすることになります。
重要なのは、成長しない原因を考える前に、まず何が成長していないのかを細かく見分けることです。
本稿では、事業の成長を、自社と顧客の関係に注目して考えます。それが事業と企業の起点であると考えるからです。他には、資本効率向上・利益率改善・組織能力深化なども事業成長の要素となりえますが、本稿では、顧客関係に従属して発生する副題と捉えます。

第一の状態 事業が成立していない
事業が成立するとは、商品やサービスが単に売れることではありません。特定の顧客の解決したい悩みや困りごとを、自社の提案する解決策が解消すること、顧客がその解決策に対価を支払ってもいいと考えること、そして、その対価が事業を継続していくに足るだけの大きさになることです。
事業が成立していない会社でも、売上が立つことはあります。それでも、顧客が誰で、どのような問題に対して、なぜ自社を選ぶのかが定まっていなければ、売上が立っている本当の論理は捉えられていません。
この状態で起きやすいのは、努力不足ではなく、事業コンセプトの曖昧さです。
誰の問題を解決するのか。その人にとって、何が解決された状態なのか。自社はどのような方法でそこへ到達させるのか。その価値は、顧客が対価を支払うほど重要なのか。これらが互いにつながっていなければ、マーケティングを強化しても、営業担当者を増やしても、事業は安定しません。入口を広げても、顧客と提供価値の関係が定まっていないからです。
事業が成立しているかを判断する際には、売上高だけでなく、次のような現象を見る必要があります。第一に、自分たちは、商品サービスを買ってくれる顧客が共通してもつ特徴を捉えられているか。第二に、顧客は、商品サービスを提供されるどの瞬間に目を輝かせ、喜びを露わにするか。第三に、顧客が商品サービスに対して支払っていいと考える対価は十分にあるか。
これらに確信を持てないなら、事業そのものが、まだ顧客との間で十分に成立していない可能性があります。事業はまだ、事業コンセプトを明確化する段階にあります。
この段階で経営者が問うべきことは、「どう売るか」より先に、「誰にとって、何が成立すれば、この事業はなくてはならないものになるのか」です。
第二の状態 事業は成立しているが、拡大しない
第二の状態では、顧客も提供価値も明確で、対価水準は事業を継続させるに十分です。実際に売れており、一定の利益も生まれています。にもかかわらず、売上や利益があるところから先へ伸びません。
既存顧客には評価されるものの、新しい顧客へ広がらない。商品には競争力があるものの、生産能力や販売人材が追いつかない。営業を増やしても、生産や品質管理がキャパシティの上限に達する。拠点を増やしても、業務とサービスの質が落ちる。管理を強化すると、意思決定が遅くなる。事業を成立させる内部活動のどこかに限界があって、ある程度から先に伸びていけません。
事業を拡大させることは、事業を成立させることと同じではありません。
事業の成立は、顧客と提供価値と対価の関係によって決まります。一方、事業の拡大には、その価値をより多くの顧客へ届けながら、品質、収益性、組織能力を維持する仕組みが必要です。
この段階では、拡大させたいなら「売れているのだから、営業を増やせばよい」と考えがちです。しかし、営業だけを増やせば、受注後の現場へ負荷が集中します。人を増やせば、教育と管理に負荷がかかります。業務を標準化すれば、これまで顧客から評価されていた個別対応が失われるかもしれません。
ここで問われるのは、量を増やす方法だけではありません。質を維持することも考えることが重要です。
現在の事業は、何によって価値を生んでいるのか。その価値のうち、標準化できる部分と、個別に残すべき部分はどこか。誰が担当しても維持できるものと、特定の人物に依存するものは何か。事業規模が大きくなったとき、現在の提供価値のどこまでが維持でき、どこからは維持できないのか。
事業が拡大しない会社では、現在の成功を作っているものが、同時に拡大の障害になることがあります。
創業者の卓越した営業力が事業を成立させたが、その営業力を他の人へ移せない。顧客ごとの丁寧な対応が評価されたが、その丁寧な対応力を増える顧客に適用していけない。高い技術力が競争優位になったが、優位性を維持できるほどに技術を担える人材を育てるまで時間がかかる。迅速な意思決定が顧客を驚かせ、喜びを期待に変える強みになっていたが、組織が大きくなると経営者一人では判断しきれない。事業の規模が拡大するときに、これまでの成功の条件をそのまま拡大できないことがあります。
したがって、拡大のために現在の成功方法を単純に反復すればよいとは限りません。むしろ、これまでの成功をどこまで残し、何を作り変えるかが問われます。
この段階で経営者が答えるべき問いは、「現在の成功をどう増やすか」だけではありません。むしろ逆に、「現在の成功を支えてきた何を変えなければ、次の規模へ進めないか」です。
第三の状態 事業が派生・展開しない
第三の状態では、既存事業は成立し、一定の規模まで拡大しています。現在の収益も大きくは崩れていません。しかし、既存事業に続く新しい価値や事業が生まれません。
新規事業の案は出るし、プロジェクトも立ち上がる。外部企業との連携や投資も行う。それでも、次の収益の柱と呼べる事業には育たない。
ここでは、事業が派生・展開しない状況を二つに分けて考えます。一つは、既存事業を軸足にして、そこで見出した新しい可能性に半身だけ乗り出すものです。もう一つは、既存事業から一足遠くに飛び出して、既存事業と繋がりのない新しいところに乗り出すものです。今考えようとしている第三の状態は前者です。後者は、事業をゼロから成立させる第一の状態と考えるのが妥当です。
したがって、この状態は、既存事業が強く、成功している会社ほど起こります。しかし、既存事業が弱く、成功できていない会社なら、そもそも事業を派生・展開させられるところまで来ていませんから、この第三の状態には来られません。成功した会社ゆえの停滞の原因を掴む必要があります。
成功した事業には、それを支える顧客、市場、技術、組織、評価制度、投資基準、経営者の判断基準が結びついています。会社はその事業を効率よく運営するために最適化されます。すると、新しい事業も、既存事業の基準で評価されるようになります。できるだけ既存事業の強みを活かして新しい事業を育てようと考えるのです。
既存顧客に売れるか。現在の営業網を使えるか。既存設備を利用できるか。現在の利益率を達成できるか。短期間で事業規模を作れるか。
こうした既存事業の基準に立った問いは合理的です。しかし、新しい事業は、既存事業と異なる顧客、異なる価値、異なる技術、異なる時間軸を必要とする場合があります。既存事業の正解を厳密に適用するほど、新しい事業の可能性が早い段階で排除されてしまうことがあります。ここで起きているのは、アイデア不足ではありません。会社が新しい可能性を見るための眼を、既存事業の成功によって狭めているということです。
新規事業を考える際、既存商品に近いものばかりが候補になっていないか。新しい顧客の問題より、自社の既存資産をどう活用するかが先に立っていないか。現在の事業と同じ収益基準を、立ち上げ初期から要求していないか。新事業を任された人が、既存事業での評価や社内調整を気にしながら動いていないか。
新しい事業を作るとは、既存事業の周辺へ商品を増やすことだけではありません。これまでとは異なる顧客を見つめ、異なる問題を知り、自社が提供し得る別の価値を発見することです。
そのためには、既存事業を作ったときと同じように、企業がもう一度、顧客と提供価値と対価の組み合わせとしての事業コンセプトを見直さなければなりません。
この段階で経営者が問うべきことは、「次は何を売るか」だけではありません。「自社は、既存事業を通じて何を学び、次に誰のどのような問題へ向き合う存在になり得るのか」です。
三つの状態は、同時に起こり得る
事業が成立しない、拡大しない、派生・展開しないという三つの状態は、企業に一つだけ起こるとは限りません。
例えば、一つの会社の中で見ても、既存の主力事業は成立し拡大しているが、飛び地の新規事業はまだ事業として成立していない。主力事業では、国内事業は成立しているが、海外事業はまだ拡大可能性が見えていない。主力の国内事業でも、既存商品は拡大しているが、既存顧客の新しい問題に対応する新しい商品にまで派生・展開させられていない。
企業全体を「成長している」「停滞している」と一括りにすると、この違いを見落とします。
必要なのは、事業ごとに、現在どの段階で止まっているかを確認することです。
まだ顧客との間で事業が成立していないのか。成立はしているが、価値を届ける仕組みが拡大できていないのか。一つの事業は拡大したが、そこから次の価値創造が生まれていないのか。
段階が違えば、優先すべき経営課題も変わります。
会社の中にあるさまざまな事業が、それぞれに異なる段階にあって異なる経営課題に直面しているとき、どの事業のどの経営課題を優先するべきかを考える必要があります。そして、優先順位順に進めるにせよ、同時並行で進めるにせよ、事業ごとに、段階に見合った経営課題に対処する必要があります。
事業が成立していないなら、組織を拡大する前に、顧客と提供価値の関係を確かめる必要があります。拡大しないなら、成功を担ってきた方法のうち、何を仕組みに変え、何を変革すべきかを見極めます。派生・展開しないなら、既存事業の改善だけでなく、会社が顧客と世界を見る視野そのものを広げる必要があります。
事業が成長しない原因を探す前に、どこで止まっているかを見る
会社が成長しないとき、原因を列挙することは難しくありません。
顧客の理解が足りない。商品に競争力がない。戦略が不明確である。営業力が弱い。人が足りない。組織が動かない。外部環境が悪化した。意思決定が遅い。新しい技術へ対応できていない。
一般に、成長停滞の原因として、成長の定義不足、過去の成功への固執、人材育成、営業、マーケティング、差別化、意思決定などが挙げられることがあります。これらは、いずれも実際に起こり得る問題ですが、同じ原因であっても、事業のどの段階で起きているかによって意味が変わります。
例えば、一口に「営業力が弱い」と成長停滞の原因を見出したとしても、その見立てた原因の意味は事業の段階によって変わります。まだ事業が成立していない原因として、営業力の不足があるのか。すでに成立した事業が拡大できない原因として、特定の人物への営業方法の依存があるのか。新しい顧客と新しい価値を発見できない原因として、既存事業の強い営業力への過度な信頼があるのか。「営業力が弱い」と診断しただけでは、この違いは分かりません。
例えば、「人材不足」も同じです。事業を成立させるのに、専門能力が不足しているのか。拡大を支えるのに、管理人材が不足しているのか。新しい事業を作るのに、既存事業とは異なる能力を持つ人材が不足しているのか。
したがって、原因を探す前に、問題の位置を特定しなければなりません。事業が成立していない。事業は成立しているが、拡大しない。既存事業は拡大したが、次の事業へ派生・展開しない。この三つを区別するだけでも、経営課題の見え方は大きく変わります。
それでも、三つの状態は「結果」にすぎない
ただし、三つの状態を見分けても、実は、まだ問題の入口に立ったにすぎません。
事業が成立しない、拡大しない、派生・展開しないという状態は、原因ではなく結果だからです。
事業が成立しない会社では、顧客理解や商品設計に問題があるのかもしれません。しかし、なぜその会社は顧客を正しく見られなかったのでしょうか。
事業が拡大しない会社では、組織や仕組みに問題があるのかもしれません。しかし、なぜ経営者は成功方法を別の形へ変えられなかったのでしょうか。
事業が派生・展開しない会社では、新規事業の仕組みに問題があるのかもしれません。しかし、なぜ会社は既存事業とは異なる価値を構想できなくなったのでしょうか。
ここから先は、個別施策の問題だけでは説明できません。
企業が何を目指し、何を実現しようとしているのか。そこから、どのような戦略が組み立てられ、どのような実行が行われているのか。実行から得た顧客や市場の反応が、戦略だけでなく、企業の目的や意思へ戻っているのか。
企業の成長は、理念から発して、意思、戦略と通じて、実行へ至る一方向へ流れることだけでは生まれません。実行を通じて市場や顧客と接し、その結果を受け取って戦略、意思、理念を見直す循環が必要です。この循環が淀みなく流れるとき、事業コンセプトが磨かれ、成功の条件を刷新して、顧客と市場の中に未だ見ぬ隠れた問題と提供価値の可能性を発見していくことができます。
事業が成立しないことも、拡大しないことも、派生・展開しないことも、この循環のどこかが止まっていることの現れかもしれません。
自社を診断するための三つの問い
ここまで読んできた貴方の頭に思い浮かぶのはどの事業でしょうか。その事業は、現在思うように成長していますか。もし成長していないとすれば、どこに引っ掛かっているでしょうか。最初に次の三つの問いを考えてみましょう。
1)自社事業は、誰のどのような問題を、どのように解決し、どういう価値を成立しているか。
2)自社事業は、品質と収益性を失わずに、その価値を現在より多くの顧客へ届けられるか。
3)自社事業は、これまでに得た経験と顧客理解から、次に向き合うべき人と問題を見つけているか。
第一の問いに答えられなければ、事業の成立に問題があります。
第一には答えられるが、第二に答えられなければ、拡大の仕組みに問題があります。
第一と第二には答えられるが、第三に答えられなければ、事業を派生・展開させる力に問題があります。
そして、三つすべてに形式上は答えられるのに、なお会社が前進していないと感じるなら、個々の事業よりも、企業経営全体の連動に問題がある可能性があります。
その場合、次に見るべきものは、新しい施策ではありません。自社は何を目指しているのか。経営者は何を実現する意思を持っているのか。その意思は戦略へ変換されているか。戦略は実行へつながっているか。実行結果は、次の判断だけでなく、自社の目的と意思を更新しているか。
事業の成長とは、売上規模が大きくなることだけではありません。顧客との間に価値を成立させ、その価値をより広く届け、そこで得た経験から新しい価値を生み出せることです。
自社の事業が成長しないとき、最初に問うべきなのは「何をすれば売上が伸びるか」ではありません。まず、何が成立せず、何が拡大せず、何が次へ生まれていないのかを見分けることです。
そこを正しく見定めたとき、取り組むべき問題は、これまで考えていたものとは違って見え始めます。
次に考えたいこと
この記事で、自社の事業がどこで止まっているかが見えてきたなら、次は、その状態を生み出している原因や経営全体の構造を考えてみてください。
CONTACT
貴方ならではの未来を形にする経営へ
貴方が創りたかった未来を、
これからどのように創りにいきますか?
貴方の内なる想いこそ、力強いエンジンになる
