経営していれば、問題は次々に現れます。利益率が低い。営業効率が悪い。外部委託費が膨らんでいる。部門間の連携が進まない。顧客が離れている。新しい商品が育たない。有能な人材が辞めていく。
問題が見つかれば、放置するわけにはいきません。原因を調べ、責任者を決め、対策を実行する。経営会議で進捗を確認し、成果が出なければ別の手を打つ。そうして、一つひとつ問題を解決していきます。
多くの場合、実際に成果が出ます。費用が減る。業務が整理される。営業成績が改善される。組織上の役割が明確になる。
それでもしばらくすると、別の場所に新しい問題が現れます。利益率を改善したのに、今度は売上の伸びが止まる。組織を再編したのに、部門間の対立が起こる。外部委託を整理したのに、別の業務が複雑化する。問題の名前も、現れる場所も変わっています。しかし、会社全体を覆う停滞感は消えません。
問題を解決しているのに、会社が変わって前進している感じがしない。このようなとき、選んだ施策やその実行力を疑っても、十分ではないかもしれません。
本当に見るべきなのは、解決しようとしている問題が、会社を止めている本当の問題なのかということです。
目に見える問題は、何かが起きた「結果」である
利益率が低い。費用が増えた。意思決定が遅い。組織が動かない。こうしたものは、それ自体として重要です。経営数値や現場の状態として現れ、会社へ実際の損失を与えます。
しかし、目に見える問題は、多くの場合、それ以前に起きた何かの結果でもあります。利益率が低いのであれば、価値に対して十分な対価を得られていないのかもしれません。価値を生み出すための費用が大きすぎるのかもしれません。顧客へ提供している価値と、事業を運営する仕組みが釣り合っていない可能性もあります。
外部委託費が大きいのであれば、委託単価が高いのかもしれません。自社の中で誰が担うべき業務か決まっていないせいで、責任の空白を埋めるために委託が増えたのかもしれまえん。
組織が動かないのであれば、役割や権限が不明確なのかもしれません。そもそも、組織がどこへ向かって動くべきかについて、経営者と役員と現場で異なる理解を持っているのかもしれません。
目に見える現象へ直接手を加えれば、短期的には変化が現れます。それでも、その現象を生んだものが残っていれば、同じ力が別の場所に新たな問題を作ります。
問題を根治するのは、目に見える現象を消すことではありません。その現象を生み続けている力を見つけ、働き方を変えることです。

低利益率という問題を、どこまで掘り下げるか
ここで、利益率の低さを問題とする企業のケースを考えてみます。
利益率が低ければ、将来選べる策は狭まります。研究開発、人材育成、新規事業、設備、事業買収などへ投資できる余力が減るからです。環境が悪化したときに耐える力も弱くなります。したがって、利益率を改善しなければならないという判断は妥当です。
しかし、「利益率が低い」という言葉だけでは、まだ、何を変えるべきかは分かりません。
利益は、顧客へ生み出した価値に対して受け取る対価と、その価値を生み出すために費やした費用との差から生まれます。低利益率は、価値創出力が弱いか、価値を生む費用が大きいか、その両方が起きている状態です。
しかし、これもまだ現象の説明です。どちらを問題と見るかは、その事業がどのような勝ち方を選んでいるかによって変わります。
事業の中核が、低い費用で顧客へ十分な価値を提供することにあるなら、費用の大きさは戦略上の問題になります。一方、他社では得られない特殊な価値を提供することが事業の中核なら、まず見るべきなのは価値創出力です。同じ低利益率でも、事業戦略が異なれば、経営上の意味は異なります。
ここで戦略へ立ち返るのは、抽象的な戦略論を始めるためではありません。目の前で起きている現象が、事業のどこを揺るがしているのかを知るためです。
事業の戦略的中核は、自社が市場で選ばれる源泉であり、顧客へ提供する付加価値の源泉です。そこには、人、資金、技術、時間などの貴重な経営資源が傾注されています。
利益率が低コスト戦略を侵食しているなら、それは単に今期の数値が悪いという話ではありません。企業を存在させている基盤が弱くなっているということです。
数値から、現場で起きていることへ降りる
低コスト戦略を採用している会社で費用が増えているなら、次に見るのは、何が費用を大きくしているかです。費目と関連データを照らし合わせれば、異常な動きに当たりをつけられます。
例えば、営業費用は増えているのに、受注率が上がっていない。営業担当者の稼働時間も増えているが、成果へつながっていない。その場合、「営業活動で何らかの非効率が起きている」という仮説が立ちます。
しかし、費用データだけを眺めても、非効率の実体は見えません。ここから現場へ降ります。
成果の高い営業担当者と、成果の上がらない営業担当者は、顧客をどのように訪問しているのか。何を話しているのか。どのような情報を引き出しているのか。得た情報を、社内でどう共有しているのか。次の顧客との対話へどう反映しているのか。動きを細かく見ていけば、成果差を生むものが見えてきます。
成果の高い営業担当者は、顧客との対話で特定の情報を引き出し、次の提案へつなげている。しかし、そのやり方は本人の経験や個人的な関係に埋め込まれており、別の担当者には利用しにくい。そこで、情報を引き出し、共有し、次の提案へ変換する枠組みを会社として整えれば、営業組織全体の成果を引き上げられるかもしれません。
その結果、成果を維持しながら営業費用を削減できれば、低コスト体質の回復と営業生産性の向上を同時に実現できます。
低利益率という数値から始まり、費用、営業活動、担当者の具体的な動きまで降りてきました。問題の真因に近づくほど、起点とは異なる現象へ触れることになります。
利益率の問題だからといって、利益率へ直接手を加えればよいとは限りません。人件費や経費を一律に削減すれば、数値は一時的に改善するかもしれません。しかし、成果を生む活動まで弱めれば、売上や顧客価値を失います。
必要なのは、数値を変えることではなく、その数値を生んでいる動きを変えることです。

しかし、このケースは、ここでも終わりません。
直接原因を直しただけでは、問題は再び生まれる
営業活動の非効率を発見し、改善すれば、一つの原因は取り除けます。それでも、もう一段深く考える必要があります。
低コスト戦略を採用しているにもかかわらず、なぜ費用を増大させる力が働いていたのでしょうか。それは、事業競争力の源泉に規律が効いていないことを示す危険な徴候かもしれません。
船に例えるなら、推進力を生むスクリューが逆回転している状態です。船長であれば、逆回転によって生じた燃料消費を減らすだけでは済ませません。なぜスクリューが逆回転したのか、推進力を生む仕組みのどこが壊れたのかを調べます。
企業についても同じです。低コスト戦略と費用効率の高い事業運営をつなぐ土台が、どこかで崩れていないかを見なければなりません。
原因は社外にあるかもしれません。
原材料の調達先、販売代理店、人材紹介会社、BPO委託会社、生産委託先、開発委託先など、事業の重要な機能を担う外部パートナーとの関係が変化している可能性があります。
パートナーが競合から有利な条件を提示され、自社との協業条件を見直そうとしている。別の産業の成長に引かれ、自社へ割いていた人材や設備を減らしている。以前は協力的だった企業が、次第に自社の費用を押し上げる側へ回っている。
こうしたことが起きていれば、取引条件の見直しやパートナーの代替が必要になるかもしれません。さらに、自社の競争優位を支える重要機能を、外部へ依存したままでよいかという問いも生まれます。
事業の優位性が、自社から見えない場所で揺らぐのであれば、その機能を内部化して自社の裁量下へ置くことも選択肢になります。バリューチェーンの垂直統合です。
反対に、原因が社内にある場合もあります。
低コストを強みとする事業なのに、社内から高付加価値化の提案が次々に出ている。高性能な製品を作る、機能を増やす、高級な仕様に変える。しかし、その提案は顧客の声から生まれたものではない。
余った原材料を活用したい。自社の技術ならもっと高性能な製品を作れる。開発部門の能力を示したい。自分たちなら、もっとできるはずだ。せっかく作った設備を使いたい。そういう発想に立った社内の人材が、よかれと思って高付加価値の提案をしている、ということがあり得ます。
それぞれ、担当者の善意や創意から生まれた提案です。しかし、顧客から目線が離れ、自社の都合が出発点になれば、低コスト戦略と反対の方向へ事業を動かすことがあります。
社員を叱れば済む問題ではありません。創意を抑え込めば、企業の活力を損ないます。一方、善意だからと放置すれば、事業の骨格が少しずつずれていきます。
ここでの直接的な問題は、顧客から目線が離れたことです。しかし、より深い問題は、そのような状態を許した経営の規律にあります。
顧客との接点から得た情報が社内へ還流しているか。商品開発や営業施策が、顧客の変化によって刺激されているか。それとも、自社の設備、技術、余剰資源、部門事情から生まれているか。
社内の創造性を守りながら、人と組織の目線を顧客へ向け続ける。その仕組みと規律を作らなければ、低コスト戦略は、文書の上に存在するだけになります。
低利益率という問題を深く掘ると、営業費用や担当者の活動だけでなく、外部パートナーとの関係、バリューチェーン、顧客への目線、社内創意、経営の規律まで現れました。
目に見える現象の奥に入っていくから、同じ問題を生み出す力学に到達できたと言えます。
根治とは、原因を一つ見つけることではない
経営課題について「根本原因を見つける」と言うと、一本の鎖を遡り、最後に一つの原因へ到達するように聞こえます。
しかし、一つの究極的な原因が、いつも必ずあるわけではありません。実際の企業経営はそれほど単純ではない。
低利益率は、営業活動の非効率によって生じている。同時に、外部パートナーとの関係変化によって費用が増えている。さらに、社内では戦略と異なる提案が生まれ、それを修正する経営の規律も弱くなっている。複数の力がそれぞれに働き、互いを強め合った結果として、一つの現象が現れます。
したがって、根治とは、ただ一つの究極原因を探し当てることではありません。問題を生み続ける力の全体像を見て、どの力へ働きかければ連鎖が変わるかを見定めることです。
営業担当者の動きだけを直せばよいのか。外部パートナーとの関係を再構築すべきか。重要機能を内部化すべきか。顧客からの情報を事業運営へ戻す仕組みを作るべきか。戦略と日常の判断を結ぶ規律を整えるべきか。
すべてを同時に変えることはできません。だからこそ、経営者は、問題の全体を見たうえで、どこへ手を入れれば最も大きく力学が変わるかを判断する必要があります。
深く掘るだけでは足りない
問題を根治できれば、それで十分なのでしょうか。
ここで、もう一つの企業事例を考えてみます。
日本を代表するある大企業メーカーでは、複雑化した業務と膨大な外部委託が問題になっていました。開発、生産、営業、マーケティングなど、長い年月の中でさまざまな施策が積み重なり、多くの業務が社外へ委託されていました。
企業は外部委託費の見直しを始めます。
ところが、個々の委託契約を調べると、問題は単価や契約条件だけではありませんでした。部署間に責任の空白があり、誰が担うべきか決まらない業務を外部企業が埋めていたのです。
さらに、委託費の背後に、組織と業務の組み立て方の問題が見えてきました。そこで、組織・業務改革に手をつけます。意思決定の三遊間を埋め、業務の責任を明確にするためです。
しかし、さらに掘り下げると、問題は組織の分担だけではありませんでした。企業の中には、異なる種類の顧客へ向いた複数の事業がありました。それぞれの部門は、それぞれの顧客のためを思って動いていました。しかし、会社全体として何に向かって事業活動を行うのかについて、十分な統合がなされていませんでした。
複雑な業務体系から始まった問題は、外部委託の非効率へ進み、組織と業務の非効率へ進み、最後には、事業間の齟齬と企業の目的に関する問いへ到達しました。
外部委託、組織、業務、顧客、事業、戦略。別々の経営課題に見えていたものが、深いところでつながっていました。そこまで到達できたことは良かったのです。
しかし、問題があります。
問題の特定と対処に長い時間を要したことです。外部委託の整理だけでも一年以上が費やされました。一定の利益効果は生まれましたが、そこに至るまでに多くの人材と時間が投入されました。得られた利益効果に対して、経営資源を使いすぎたのです。
問題には到達した。一定の成果も出した。それでも、経営として十分なインパクトを生み出したとは言い切れません。
正しい問題へ、早く到達しなければならない
メーカー事例が示すのは、根治の必要性だけではありません。根治へ至る速度もまた、経営上の価値を左右するということです。
経営資源には限りがあります。経営者と役員が一つの改革へ注意を向けている間、別の機会は後回しになります。優秀な人材を長期間投入すれば、新事業、顧客開拓、商品開発などへ使える力が減ります。
問題解決に時間がかかるほど、市場も顧客も競合も変化します。正しい答えへ到達した頃には、最初に見えていた事業機会そのものが失われていることもあります。
だから、問題を深く見るだけでは足りません。どの現象から入り、どの順番で仮説を置き、どこまで遡れば経営上の重要問題へ到達できるか。その見極めを速くしなければなりません。
低利益率ケースは、目に見える現象から真因へ遡る深さの必要を示しました。
メーカー事例は、その遡行に時間を使いすぎれば、正しい問題を解いても経営的な価値が小さくなることを示しています。
経営課題の解決には、深さと速度の両方が必要です。
問題の根を浅い場所で切れば、再び生えてきます。しかし、根を探して掘り続けるだけでも、会社は前へ進みません。
必要なのは、問題を生み出す力学の中心へ、できる限り早く到達し、限られた経営資源で大きな変化を起こすことです。
2つのケースから見えた、問題の解決を会社の前進につなげる条件
問題を解決しても会社が変わらないとすれば、主に三つの可能性があります。
第一に、問題とみた現象は解消させたが、問題を生んだ原因は手付かずで残っている。
第二に、問題を生んだ原因の一つは取り除いたが、複数ある原因すべてが問題を生む構造が変わっていない。
第三に、問題を生んだ原因すべてに正しく到達したものの、時間と経営資源を使いすぎ、効果が費用に比して少ない、つまり十分なインパクトを生めていない。
会社を前進させるには、この三つを越えなければなりません。
現象への対処から、問題を生み出す力学へ進む。個別原因から、それらが連携している構造へ進む。そして、重要な構造へ早く到達し、大きな変化を起こす。
そのように考えると、経営課題の目的は、問題のない会社を作ることではないと分かります。企業から問題がなくなることはありません。事業を動かせば、新しい顧客と出会い、新しい競争が生まれ、組織も変化します。以前には存在しなかった問題が現れます。
重要なのは、現在の問題を、会社が次の段階へ進むための問題へ変えることです。
同じ問題を繰り返し解く状態から、より本質的で、より未来に近い問題へ移っていく。その変化があって初めて、問題解決は会社の前進になります。
いま取り組んでいる問題を、一つだけ思い浮かべてください
ここまで読まれて、ご自身の会社で現在取り組んでいる問題を一つだけ思い浮かべてみてください。
利益率かもしれません。営業効率、外部委託費、組織の責任、顧客離反、新規事業、人材の問題かもしれません。
その問題について、三つのことを考えてみてください。
いま問題と呼んでいるものは、それ自体が原因でしょうか。それとも、別の何かによって生じた現象でしょうか。
現在考えている対策によって直接原因を取り除いた後も、同じ問題を生み出す力は会社の中に残らないでしょうか。
そして、その問題の見極めと解決に投入する時間、人材、資金に対して、十分に大きな経営インパクトを得られるでしょうか。
経営者が感じる「問題を解決しているのに前へ進まない」という違和感は、単なる焦りではありません。
目に見える問題の奥に、まだ触れられていない大きな問題があることを、経営者が誰より先に察知している徴であることがあります。
その違和感を急いで打ち消さず、何が会社の前進を止めているのかを、もう一度見つめ直してみてください。
解決すべきなのは、目に付いた問題とは限りません。
その問題を生み続け、本来向かうはずだった未来から会社を遠ざけている力かもしれないからです。
次に考えたいこと
この記事で、自社の問題解決の深層に何がありそうかが見えてきたなら、次は、その状態を生み出している原因や経営全体の構造を考えてみてください。
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